2018年8月26日 

2018車いすバスケットボール世界選手権(総集編)

“事実"の裏に隠された“日本の成長"と“欧州勢の停滞"

2020年への「最後のリハーサル」に臨んだ日本代表

26日(現地時間)、11日間にわたってドイツ・ハンブルクで開催された車いすバスケットボール世界選手権の戦いの幕が下ろされた。男子はイギリスがリオデジャネイロパラリンピック金メダルチームのアメリカを破って優勝。女子は下馬評通りの強さを見せたオランダが初優勝に輝いた。

4大会連続での9位という“事実"

東京でメダルを獲得するための“最後のリハーサル"として、過去最高位の「ベスト4以上」という目標を掲げて臨んだ男子日本代表は、グループリーグをトップで通過したものの、クロスオーバー形式で行われた決勝トーナメント1回戦でスペインに50-52で敗れ、9位に。「ベスト4以上」という目標には遠く及ばなかった。

2012年ロンドンパラリンピック、14年世界選手権、そして2年前の16年リオデジャネイロパラリンピックと、日本はこれで「世界一決定戦」においては4大会連続で9位となった。順位だけを見れば、「結局、世界との差を縮めることはできなかった」ということになる。それについては、言い訳することはできない。「この結果は真摯に受け止めなければいけない」と及川晋平HCが語れば、エース香西宏昭も「自分たちに力がなかったということ。それだけです」と、9位だった“事実"を認めている。

無論、“負け"は“負け"である。「9位」という成績は、これからも日本代表についてまわることになる。そして、世間一般からすれば、今あるのは、負けた事実であり、9位という順位、ただそれだけだ。

しかし、その一方で、事実を受け止めながら、その背景にある“真実"にも目を向けることもまた、競技においては重要だろう。“事実"と“真実"とがあってこそ、次への一歩を踏み出せるからだ。待ったなしで迫りくる2020年に向けて、日本代表は立ち止まることは許されない。だからこそ、今大会を無駄にすることなく、糧にするためには、“真実"を見ることもまた不可欠だ。

では、今大会で見えた“真実"とは何だったのか。そこには“成長"と“課題"があった。

違いは一目瞭然。リオからの成長度合い

欧州の強豪相手に2年前のリオから成長した姿を見せ続けた

まず着目したいのは、グループリーグ「1位」という成績だ。今大会はクロスオーバー形式だったために、グループリーグの順位での組み合わせによるトーナメントを全16チームが1回戦から勝ち上がっていかなければならなかった。

最初のグループリーグは4チームずつに分けられ、3試合のみ。これまでの8チームずつ2グループでリーグ戦が行われていたことを考えれば、日程的には負担は少なかったが、その反面、3試合しかないために取り返しがきかない。リオの銀メダルチームであるスペインが、まさかの3戦全敗を喫し、グループリーグで最下位だったことを考えても、決して楽な戦いではなかったことがわかる。そんななか、日本はリーグ最終戦のブラジルに負けたとはいえ、大事な初戦のイタリア、そして強豪トルコに勝っての「トップ通過」は、チームに大きな自信をもたらしたに違いない。

そして、今大会でポイントとなった試合、トルコ(グループリーグ)、スペイン(決勝トーナメント1回戦)、オランダ(9、10位決定戦)は、いずれも2年前のリオでも対戦し、3連敗を喫している相手でもある。そのヨーロッパの強豪3チームとのスコアを比較してみると、この2年での成長度合いが一目瞭然だ。

<リオパラ>
トルコ戦●49-65
スペイン戦●39-55
オランダ戦●59-67

<今大会>
トルコ戦○67-62
スペイン戦●50-52
オランダ戦○55-54

リオで敗れたトルコとオランダには今大会ではしっかりと勝利をおさめ、同じ敗戦でも16点差と離されたスペインにはあと一歩というところまで迫った。特にトルコとスペインにおいては、日本の得点が伸びているのに対して、相手の得点は2年前とほぼ同じ。日本の得点力がレベルアップしているのに対し、トルコとスペインは日本のディフェンスに対して何ら変わってはいないということが言える。

スタッツが示す“成長"と“停滞"

“全員バスケ"へと変貌を遂げた日本代表

選手層においても、日本は2年前とはまるで違うチームとなっている。「結局は香西、藤本怜央のチーム」と言われていたのは、もう過去の話だ、今ではすっかり“全員バスケ"に切り替わっている。スペイン戦でのスタッツがそれを物語っている。香西の12得点に続いて、鳥海連志と藤本怜央が11得点ずつを取り、さらにキャプテン豊島英も8得点を挙げた。そして12人中11人をコート上に送り出している。まさに“全員バスケ"の真骨頂と言える試合だった。

翻ってスペインは、得点を挙げたのはスターティングメンバーの5人のみ。出場も8人と限られ、スタメンのプレータイムは40分だった2人を筆頭に、そのほか3人も36分以上となっている。スペインにとって、どれだけこの日本戦が厳しく、余裕のなかった戦いであったかは想像に難くない。

「この2年間で、相手は何も変わらず、一方日本は確実に成長していることを確認することができた。相手がこのままスタイルを変えなければ、次に対戦した時には、必ず勝てる自信がある」
決勝トーナメント1回戦でスペインに敗れた後の指揮官のこの言葉は、決して強がりなどではない。

こうした“真実"を踏まえると、今回の「9位」は、これまでとは別次元だということがわかる。

しかし、その一方で、グループリーグ首位だった日本が9位だったのに対して、グループリーグ最下位のスペインが5位という最終結果は、日本に多くの課題が残されたことを示したとも言える。

一つは、やはりシュートの精度だろう。その点において、日本はまだ「メダル圏内」にはいない。今大会でのフィールドゴールの成功率の最高は、トルコ戦とオランダ戦での44%だった日本。一方、優勝したイギリスの決勝での成功率は60%を誇った。その決勝では42%にとどまったアメリカも準決勝では57%という数字を残している。さらに銅メダルのオーストラリアも3位決定戦で50%の確率でシュートを決めている。日本が目指した「ベスト4以上」に入った3チームが残した数字は、一つの目安となるに違いない。

もう一つ課題として見えたのは、パスの精度だ。今大会ではパスミスから、相手ボール、あるいはターンオーバーからのカウンターで相手に得点を許すといったシーンが少なくなかった。また、スタッツでは見えない部分でも、タイミングやスピード、高さや角度など、わずかなズレが次へのプレーのブレーキになっていたようにも感じられた。「ベリーハードワーク」によって、一つ一つの切り替えや動きがスピードアップし、逆にそれがこうしたズレを生じさせていることも考えられる。いずれにしても、“正確さ"や“緻密さ"において、高さやパワーで上回る海外勢を圧倒する必要があることは他のスポーツと同じ。パスの精度を高めることは、メダル獲得を目指すうえでの必須条件であり、勝機を見出す重要なカギとなるはずだ。

“最後のリハーサル"でつかんだ次へのエネルギー

「アジパラではさらに強い日本を見せる」と誓う及川晋平HC

では、東京に向けての“最後のリハーサル"としていた今大会。9位という結果を踏まえて、果たしてリハーサルとしてはどうだったのか。及川HCはこう語る。

「代表というのは、常に結果が求められる場で、今回の9位という結果をどう評価されるかは、我々にはどうすることもできない。ただ、手応えと言ってはいけないけれど、2020年に向けての流れの中に日本もいる、というものはしっかりとつかむことができた。次に進むには、それが一番大事だと思っていたので、そういう点では『よしっ、次だ』と思っています」

2カ月後の10月には、アジアパラ競技大会がインドネシアで開催される。そこでの最大のライバルはイラン。今大会で日本が目指していたベスト4進出を果たしたアジアの強豪だ。だからこそ、そのイランに勝つ意味は大きい。

「日本のバスケをさらに強くするための絶好の機会。我々に守るものは何もない。挑戦し、イランに勝って、さらに成長していきたいと思っています」と及川HC。

泣いても、悔やんでも、やり直しはきかないし、結果が覆されることもない。ならば、やることはただ一つ。前へ前へと進むのみ。アジパラでは、成長し続けながらも、今度こそ結果を残す。それが今の日本代表のミッションだ。

(文・斎藤寿子、写真・竹内圭、峯瑞恵)

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