2017年7月25日 

対談企画② ウィルチェアーラグビー

ローポインターの矜持

下肢だけでなく上肢にも障害がある選手がプレーするウィルチェアーラグビー。選手には0.5〜3.5まで障害に応じたクラス分けがあり、コートでプレーする4人の合計が8点以内でなければならないというルールがある。岸光太郎と倉橋香衣。2人はともに0.5点のプレーヤーだ。最も障害が重いクラスの選手(ローポインター)として、日本チームを支える。0.5の役割とは。ウィルチェアーラグビーの魅力とは。ベテランとニューカマーによる05対談。
ーーお二人とも怪我で障害を追われていますが、子供の頃はどんな子供でしたか。
岸:僕、スポーツとは縁がなかったんです。高校と大学は写真部でした。だから昔の友人にウィルチェアーラグビーでメダルを取ったよと見せても、なんで写真部だった君がこんな激しいスポーツをやっているんだと不思議がられる(笑)。

倉橋:私は小学校から高校まで器械体操をしてました。大学でトランポリンに転向して、その公式練習中に事故に遭ったんです。

岸:もともと器械体操だから、バク転とかバク宙とかできたわけだよね?

倉橋:めっちゃ下手くそやけど、できました。

ーー怪我したのは、大学生の時ですか。
倉橋:大学3年のはじめです。ジャンプして技かけようとしてトランポリンの上に頭から落ちた。

岸:僕はバイク事故。バイトが終わって帰宅途中です。1000ccのバイクに乗ってたんですよ、カメラとかバイクとか機械モンが好きだったんですよね。対向車が急に曲がってきて、避けきれずに衝突。

ーー事故後に、自分の障害を受け入れた、意識したのはいつぐらいですか。
倉橋:いつやろ。なんか、もう、技失敗した瞬間にあ、これもう、あかんやつやって。救急隊員に「今どこ触ってるかわかる?」とか言われて、全然わからんかったし。病院のICUでお尻を看護師さんに洗ってもらう時とか、マンガの『リアル』の中に描いてあったやつや、と結構、冷静に見てた。まあ、車いすに乗れるんやったらいいかなとか、ご飯食はべられる、字が書けるって思ってました。

岸:当時はまだ歩いて退院できるのかな、と思ってました。でも、車いす生活になることがわかった時には、何か、自分の人生がリセットされるような感覚でしたね。だって、字書くのも、幼稚園の頃以来で練習しなくちゃいけないし、着替えも。全てが一回やり直しじゃない。また、やんのかよ、みたいな(笑)。

倉橋:それはあった。でも、字書けるって思って、毎日日記つけてました。どんなリハビリしたとか、どうやったらできたとか、誰がお見舞いに来てくれたとか。

ーーそんなお二人がウィルチェアーラグビーに出あわれたのは。
岸:僕はまもなくリハビリ病院を退所するという頃に、今後も体力維持したいって思って、体育の先生に相談したんですよ。ちょうどその頃、ウィルチェアーラグビーがパラリンピックの種目になるかもしれないと言われてた時でした。長野のパラリンピックの頃かな。
倉橋:私が始めたのは3年前です。埼玉にある国立リハビリテーションセンターで人数足りんから来て、みたいな感じで誘われたのがきっかけです。ぶつかっていいから面白そう! というのと、ぶつかっても誰にも怒られへんから、これはいいなって。

岸:最初、僕は大会を見学に行ったんですよ。実際に生で見て、ぶつかる迫力がすごいというのは思いました。あと、車いすそのものがかっこいいって。日常で使っているのとは全然違ったから。まずは道具に惹かれた。今でも続けているのは一緒にやっている仲間の存在だよね。全国各地に友達ができた。

倉橋:今でもわからんことだらけなんやけど、一つずつわかっていくのが面白い。知りたいし、わかるとどんどん面白くなる。だからハマってるというか。

岸:そういう香衣ちゃんの気持ち、全日本でプレーしている時にすごく出てるよね。

倉橋:クラブチーム<BLITZ>の試合よりも、全日本の方がプレータイム長いから。
ーー今年、いきなり全日本でブレークしたわけですね。
倉橋:だって、カナダ遠征に行って1試合目だけで、今までのプレータイムを超えたんですよ。もう、とにかく楽しかった!

岸:楽しいよね!

倉橋:実際にコートに出ないとわからないことがいっぱいで。コミュニケーションもとらなあかんし、声も出さなあかん。自分のことに必死で声を出さないと、今のわからんやろとか言われて、ああ、そうかって。体操みたいに一人で演技見せて点数競うのとは違うから。

岸:新鮮?

倉橋:はい。昔は球技苦手やったんですよ。ボール、トントントンって。

岸:俺も。球技って難しいよね。

倉橋:もし球技得意やったら、スペースの取り方とか、ボールのコントロールとかもっと上手やったと思う。

ーーウィルチェアーラグビーではローポインターの存在、かなり重要ですよね。
岸:これまで、ローポインターって相手の選手を引っ掛けていればいい、という感じだったと思います。でも、今はスペースを作っていく、ローポインターでもキャッチしてしっかり返すというのが、昔に比べたらものすごく重要になってきている。やっぱりロンドンパラリンピック以降、変化してきたかな。

ーーお二人とも0.5。自分なりに工夫していること、強化していることなどを教えてください。
岸:僕らみたいに上肢にも障害があると、トレーニングジムに行ってもできることが限られる。だから自主トレは自宅がメインです。2リットルのペットボトルに紐をつけて持ち上げたりしてトレーニングしています。強化しているのは、体のバランス。本当はできないんですが、イメージとしては体を全部使っているような感覚でプレーしているんです。車いすを、腰を入れて回す、というようなイメージですね。

倉橋:私はセラバンドみたいな伸縮する紐を使ってます。でも、この間、車いすにセラバンドつけてたら、切れてホイールに絡まっちゃって、取るのにすごく時間がかかっちゃった。それで腕パンパンになった。

岸:いいトレーニングになったじゃん(笑)。

倉橋:走り込みもしますけど、競技用車いすへの移乗だけでも手伝いが必要だから、なかなか自分が思うようにできないことが多いです。

ーー世界で注目しているローポインターはいますか。
倉橋:私はまだカナダとアメリカとオーストラリアしか知らんけど、名前を覚えているローポインターはジェフ(・バトラー)。

岸:アメリカのローポインターだね。

倉橋:走って、投げてってできる。すごいローポインターです。

岸:顔がスカしてる(笑)。

倉橋:止められた時に、シューってスカした顔されて(笑)。練習の時に真似してる。
ーー倉橋さんというといつも笑顔のイメージがあります。
倉橋:いや、笑ってないんですよ。なんか、声出してる時に口角が上がっとるんかな〜(笑)。

岸:オーストラリアのローポインターで(マイケル・)オーザンって、ヒゲ生えている選手がいるんだけど、彼がいっつも泣き顔してるんだよね。
倉橋:そうそう、いつも眉毛が下がっててめちゃくちゃ悲しい顔してる。その人が私のところで止めてて悲しい顔してるのに、私が後ろで思いっきり笑ってる。それがあんまり面白すぎて、岸さんがスマホで写真撮ってる(笑)。

ーーNZやカナダには女子の選手がいますね。彼女たちのプレーについてはどんな感想を?
倉橋:カナダの女子の選手は同じ0.5。彼女、すごく声も出てるし、顔の迫力がすごくて、池(透暢)さんとかも「香衣ちゃん、あの選手の顔、俺も負けてるからがんばろな」って。でも、声が出てるから周りもすごく見えてるんやろなってそういうのは見習おうって思ってます。

ーー男女ミックスというのも、ウィルチェアーラグビーの大きな特徴だと思います。
岸:でも、特に性別の意識ってしないですね。コートに入れば同じプレーヤー。

倉橋:私は、まだまだなめられてると思う。カナダの選手だったかな、ローポインターを止めてたんですけど、私を振り切って走って行く時に「グッバイ!」って言われた。あああ、絶対に言い返してやりたい!って(笑)。ジャパラの時に、クリス(・ボンド)に当てられた時に、何しとん? みたいな顔してやったわ〜(笑)。燃えるわ〜。

岸:声かけろ〜って言ってるんです。駆け引きっていうかね、もちろん相手にする選手としない選手がいるんですけど。

倉橋:止めた時とかに、外人選手に「クソッ!」とか言われると、イエ〜イっていう気分になる〜(笑)。

岸:それって、僕らに言ってるんじゃないんだ、やられた自分に向かって舌打ちしてるんだよ。

ーー今後、どんなことを強化していきたいですか。
倉橋:もう、全て。パワーも体力もないし、スピードもまだまだ足りない。ボールキャッチやパスの精度も上げなアカンし。それに、戦術の理解も深めないと。岸さんはめっちゃ先のことを考えて動いとる。いつのまにかあそこにおる、というような。あと、1cmがいつも足りない。

岸:ちょっとズルイプレーだね。香衣ちゃんがコートに入ると0点のポイントになる(女子選手が入った場合、チーム合計が0.5点加算されるというルールがある)。だから0.5の選手を止めるだけでも仕事をしているということになるけど、僕はもっと頑張らないと。
倉橋:岸さんに捕まったら蟻地獄になる〜! 抜けられない〜(笑)。どうやってやるんですか。

岸:自分がどうプレーしたいかというよりも、相手が嫌がる、自分がされたら嫌だと思うようなことをやる。バンパーで止めに行くにしても、行くそぶりをするだけで実際にはぶつからなくても相手にターンさせるということもある。そうすればロスさせることになるからね。

倉橋:そうしたら、自分もぶつかる体力いらへんしな。

岸:実際には相手との間合いみたいなこともあるし。香衣ちゃんも、今後練習や試合でそういう間合い、タイミングを自分なりつかんで行くんだと思う。

ーーローポインターとしての役割は何ですか。
倉橋:道を作ったり、ゴール前で壁を作ったり、引っ掛けて止める。相手の戦力を削る。

岸:基本的には日陰の存在ですよ(笑)。どうしても、試合を見た人は動きがあってボールを保持してるハイポインターに目がいくでしょう。そういう中でキラッと光るプレーをしたい、とは思ってますけど。

ーーリオパラリンピック以降、日本チームはデビッド・オアー監督が就任して、3311のハイローだけでなくて、3320とか、1.5と0.5の組み合わせとか、むしろ岸さんや倉橋さんが重要なポジションになっているように見えます。
岸:香衣ちゃんの役割はすごくあるよね。ハイポインターがイケイケ(池崎大輔と池透暢)だったり、島川(慎一)さんだったり、3.0点とそれ以外の2人の組み合わせのバリエーションが増えた。そこは観客が見てても面白いところじゃないかな。
倉橋:ジャパラで初めてウィルチェアーラグビーを見るという友達がきたけど、実はボール以外のところで色々やってるんやなってことを、初めて観戦したのに言ってた。意外とちゃんと見てくれてるんやなあって思った。

岸:やっぱり会場で見てくれるとわかるよね、ローポインターの動きが。

倉橋:現場に来てくれるのが一番やね。

岸:ライブだと、音も違う。ガツンって本当にすごい音が響くし。

倉橋:友達が「香衣ちゃん、やろうとしている意図はわかった」って言われた(笑)。

岸:でも、意図が見えるって大切だよ。自分の意図があってプレーしているというのは、チームメイトにも伝わるし、役割分担をチーム内でシェアできるし。そうだ、香衣ちゃん、新しいラグ車買ったんだよね。

倉橋:やっと初めて自分に合わせてオーダーしました。今までは他の選手のおさがりを使ってたから。

岸:それに乗ったら、またプレーが変わるんじゃない? チタン製の軽いラグ車だね。

倉橋:でも、軽いからもっと吹っ飛ぶかも。たくさん乗って自分の一部にせな、いかん。ラグ車のことも本当にわからなくて、全部岸さんに教えてもらった。

ーーこれだけたくさんの時間をかけている、ウィルチェアーラグビーの魅力ってなんですか
倉橋:やっぱりぶつかる迫力。あと、男女混合で男と同じに戦えること。女やからって負けたくない。

岸:僕は、なんか仕事してる感覚なんですよね。次にはもうちょっといい仕事をしよう、というような。そういう工夫を加えていくこと、熟練を重ねていくことに喜びがあるんです。

ーーそれぞれの目標を教えてください。
岸:今年はアジアオセアニアゾーン選手権、世界選手権の予選がある。そこで、いかに勝ちにいくか。そこでどんな試合ができるかですね。僕は1年1年が勝負だと思っているから。

倉橋:やっぱり、東京パラリンピックに出たいです。その舞台でしっかり活躍できるようにちゃんと練習して、役割を果たしたいと思っています。
<岸光太郎(きし・こうたろう)>=写真右
1971年10月8日、埼玉県出身。AXE所属。冊子などを製作する会社を経営。東京経済大学在学中、バイク事故により頸髄を損傷。リハビリ病院でウィルチェアーラグビーに出会う。2009年の世界選手権から日本代表選手として活躍。12年のロンドンパラリンピックに初出場、16年リオデジャネイロ大会で銅メダル。

<倉橋香衣(くらはし・かえ)>=写真左
1990年9月15日、兵庫県出身。商船三井、BLITZ所属。文教大学在学中、トランポリンの公式練習中に転落し頸髄を損傷。2014年よりウィルチェアーラグビーを始める。2017年から強化指定選手として海外遠征に参加。5月のトライネーションカップ優勝、6月ジャパンパラ競技大会では決勝でアメリカに惜敗し2位。
(文・宮崎恵理、写真・岡川武和)
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