2018年10月14日 

インドネシア2018アジアパラ競技大会:男子車いすバスケットボール(総集編)

届かなかった勝利までの「あと一歩」

試合後円陣を組む男子日本代表

大会最終日の13日、男子車いすバスケットボールの決勝が行われ、日本は“アジア王者の座"をかけてイランと対戦した。1Qで21-12と大きくリードした日本だったが、2Q以降の後半以降、徐々に点差を詰められ、3Qは53-53。4Qも一進一退の攻防が続いたが、最後はわずか1ゴール差で敗れた。超満員の会場をわかした熱戦を振り返る。

「アジア王座奪還」へ好スタート

「正直、悔しいですね。悔しい……」
まだ会場が興奮冷めやらぬ中で行われた試合後のインタビューで、及川晋平ヘッドコーチ(HC)は開口一番にそう悔しさをにじませた。

「アジア王者の座」をかけて行われたイランとの決勝戦。試合開始早々、会場は異様な雰囲気に包まれていた。開始直後に秋田啓が相手のファウルを受け、フリースローを得た。すると、イランのコーチたちは会場に集まったイランの応援団に向かって両手を大きく振り上げて煽ると、スタンドからはブーイングの嵐が巻き起こった。それはまるで1カ月半前の世界選手権と同じ光景だった。予選プール第2戦のトルコ戦、大接戦の中、試合終了間際にフリースローを得た秋田はトルコの応援団から大ブーイングを受けながら2本ともに沈めて見せたのだ。

イラン選手に厳しくディフェンスし、いい姿勢で打たせない


そんな強心臓の秋田に、この日のイラン応援団からのブーイングはほとんど効き目はなかったはずだ。しかし、2本ともに落としてしまい、チーム初得点とはならなかった。だが、このまま終わる秋田ではなかった。その約30秒後には、イランのディフェンスの裏をつくカットインプレーでほぼフリーの状態でレイアップを決めてみせた。

この秋田のシュートを機に、日本は次々と得点を重ねていった。しかも得点源は固定されておらず、香西宏昭や秋田といったハイポインターのみならず、キャプテン豊島英や岩井孝義といったローポインターも得点する様は、ちょうど1年前に世界選手権のアジアオセアニア予選でイランと対戦した時からのチームの成長を映し出していた。

一方、イランは連携のとれた、執拗な日本のディフェンスに苦戦。なかなかシュートチャンスが奪えず、24秒ぎりぎりで無理な体勢からのシュートを余儀なくされるシーンも少なくなかった。1Qは21-12と日本がダブルスコアに近い差でリードした。

残り“4秒"と“0.4秒"の攻防

ハイポインターをペイントエリア内に入れない赤石竜我


続く2Qは序盤から激しいポジション取りの応酬に、試合がヒートアップ。会場が騒然とする中、一進一退の攻防戦が繰り広げられた。そんな中、目立っていたのは若手のローポインターたちの奮闘ぶりだった。自身よりも2倍も3倍もの体格をしたビッグマンとの1on1勝負に勝ち、抜かれることなく動きを止め、ペイントエリア内に近づけさせなかったのだ。

ダブルMortezaの一人Ebrahimiがゴール下でシュートを打つ


しかし、後半に入ると、日本のプレスディフェンスが破られる場面も。2Qを終えた時点で、38-32と6点差にまでイランが迫ってきていた。

そして3Qでは、2人のシューターを乗せてしまう。Morteza AbediとMorteza Ebrahimiだ。“ダブル Morteza"で19得点を叩き出したのだ。この勢いに押され、一時逆転を許した日本は、終盤に香西と藤本怜央の2人が入るユニットを投入し、イランにいきかけた流れを食い止め、53-53の同点で終えた。

好アシストでチームの得点シーンを演出した香西宏昭


迎えた4Q、日本はそのまま香西、藤本に豊島、鳥海連志、川原凜を加えたユニットで勝負に挑んだ。日本は相手のターンオーバーを誘う好守備や、オフェンスでは香西や鳥海の好アシストで得点を重ねていった。しかし、一方のイランも“ダブル Morteza"の勢いが止まらず、一進一退の攻防が続いた。

残り1分を切ったところで、日本は62-66と4点のビハインドを負った。ここで藤本がカットインプレーで相手のファウルを受け2本のフリースローを得た。藤本がフリースローに臨むすぐ近くのスタンドからはイラン応援団のブーイングが巻き起こっていた。しかし、さすがは百戦錬磨の藤本。そのブーイングを横目に、淡々とフリースローを2本ともに沈めてみせた。さらに香西からの好アシストで受けてのカットインでレイアップを決め、ついに66-66の同点に追いついた。

苦しい姿勢から望みをかけシュートを打とうとする藤本怜央


しかし、すぐにイランはゴール下のシュートを決め、再び2点のリードを奪う。残り時間は4秒6。ここでスローインからのボールを託されたのは、藤本だった。だが、イランも予想していたのだろう。すぐさま藤本をビッグマンたちが囲んだ。それでも苦しい体勢からシュートを狙いにいった藤本だったが、ボールはゴールには届かなかった。そのルーズボールを奪い合い、ヘルドボールとなり、再び日本のスローインから試合が再開することとなった。

豊島英が倒れこみながらシュートを打つもゴールネットを揺らすことができなかった


残り時間はわずか0.4秒。すべてをワンプレーにかけた日本は、スローインの付近に藤本と香西を配置してパワーサイドをつくり、逆サイドには鳥海、そしてトップには豊島を置いた。この時、藤本と香西は当然自分たちがシュートを狙うとばかりに、故意にオーバーアクション気味に動いていたという。イランが2人に目を奪われている隙に、鳥海と豊島がカットインしてシュートあるいはファウルを受けてフリースローという戦略を練っていたのだ。

案の定、藤本と香西に注視するイラン。その裏をつくようにしてアタックした豊島にボールが渡り、シュート。しかし、ボールがネットを揺らすことも、相手ファウルの笛が鳴ることもなく、会場には試合終了のブザーが鳴り響いた。

銀メダルも「負けは負け」と一蹴したHC

メダルセレモニーに前に行なわれたインタビューで、及川HCは強い口調でこう答えた。
「2点差だろうが何点差だろうが、負けは負け。いい内容だったなんていう話じゃ、もうない。我々は勝ちに来たわけですから。この結果を重く受け止めなければならないと思っています」

そして、こう付け加えた。
「毎年毎年、バスケットが変わってきている中で、これまでの杵柄でバスケットをしている選手はもう使えません。試合を決めにいってシュートを落とすというのは、来年はもう許されない。そこがどう成長するかだし、他の選手を起用するというのもあり得る。競争力が何より大事だと考えています」

「敗戦」という事実からは逃れられない、前を向くしかない


2017年世界選手権アジアオセアニア予選では、準決勝でイランに76-80。2018年世界選手権では決勝トーナメント1回戦でスペインに50-52。そして今大会は決勝でイランに66-68。リオデジャネイロパラリンピック以降、日本は「あと一歩」のところで勝ち切れない試合が続いている。

しかし、これは裏を返せば、相手も強化を図っている中で、アジアオセアニア、そして世界の中で後れを取っていないということの証明でもある。より心技体を磨き、そして若手の台頭もある中で、日本は確実に成長していると言える。

とはいえ、指揮官が言う通り「結果は結果」だ。どれだけ内容が良くても「敗戦」という事実からは逃れられない。果たして味わい続けた「あと一歩」の重みをどう受け止め、そしてどう乗り越えていくのか。今後も目が離せそうにない。

(文・斎藤寿子、撮影・岡川武和)

【大会結果一覧】

予選リーグ vs サウジアラビア 87-26○
予選リーグ vs 台湾 95-19 ○
予選リーグ vs 韓国 81-67 ○
予選リーグ vs マレーシア 95-39 ○
準決勝 vs 中国 81-53 ○
決勝 vs イラン 66-68 ●

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